官民組織、希望者呼び込み
予防や回復を重視
政府は予防や回復に力をいれる優良な介護事業所に海外からの人材が集まりやすくする。介護保険を自立支援を重視した制度に転換する取り組みの一環で、官民でつくる新組織が日本の優良事業所をリストアップして各国に情報提供する。介護人材が不足するなか、重症化の防止に取り組む事業者を人材確保の面で有利にすることで、膨張する介護費の抑制にもつなげる。
人手不足解消促す
安倍晋三首相は2016年11月の未来投資会議で、高齢者の身の回りの世話が中心の今の介護制度を、予防や自立支援を重視した仕組みに転換する方針を示した。今回の対策はその一環となる。関係省庁や社会福祉法人などの介護事業者、医療機器メーカーなど官民でつくる新協議会が窓口役を担い、海外への情報提供を本格化する。
現状では要介護状態になって老人ホームなどの施設に入ると、寝たきりになり、要介護度が悪化するケースが多い。要介護度が高い方が事業者の報酬も上がるため、回復を促す自立支援は全国的に広がっていない。
特別養護老人ホームでは、脳こうそくで寝たきりになり口から食事ができなくなった80代の女性が、半年ほどの自立支援で歩行器付きで歩けるようになったケースもある。
こうした実績のある施設を人材確保の面で支援する。まず官民の新組織が自立支援に力点をを置く施設を優良事業所としてリストアップする。その情報を日本での就労を希望する海外の介護人材に提供することで、優良事業所を選びやすくする。
内閣官房によると、全国約7500事業所の特養ホームでは、約260事業所が自立支援で実績を残している。こうした施設が候補になる。
経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士の候補者受け入れ人数は08年度から15年度までの累計で2千人超。先の臨時国会では在留資格に「介護」を追加する改正出入国管理・難民認定法や、外国人の技能実習を拡充する法律が成立し、外国人の門戸は広がった。ただ高齢化が進むアジアでは、韓国や台湾などと介護人材の争奪戦になることが見込まれる。
政府は自立支援を柱に「治る介護」を「日本式」としてブランド化し、海外人材を集める際の武器にしたい考え。母国に帰る海外人材が「日本式介護」のノウハウや評判をアジアに広めることで、日本の介護事業者が展開しやすくなる効果も狙う。
これに加えて政府は18年度の介護報酬改定で、要介護度を改善させた事業所の報酬引上げも検討する。自立支援や回復に後ろ向きな事業所の報酬は減らす方針だ。
厚生労働省によると、16年度に10.4兆円の日本の介護費は、高齢化で25年度に19.8兆円まで膨らむ。今回の支援策で介護事業者が自立支援にガジを切れば、要介護者が回復し、介護費用を抑える効果も期待できる。