この世に悪がある限り
国民的テレビ時代劇「水戸黄門」が今秋、TBSで、武田鉄矢さんを主演に迎えて6年ぶりに復活します。私の望みは、黄門さまがさりげなく、「このバカちんがぁ」と八兵衛をしかりつけること。遠山の金さんも大岡越前守も鬼平も地上波から次々と消え、時代劇は風前の灯と思いきや、見限った人ばかりではないようです。
日が傾き、ほの暗くなりかけたお茶の間では、ひと昔前まで、年老いた家族が、テレビ時代劇の再放送に見とれていたものだった。
北陸出身で、いまは東京で暮らす女性(48)は、約20年前に他界した祖父の記憶をたどるとき、真っ先に思い浮かぶのが、里帰りするたび見かけた、その場面だという。
「水戸黄門が大好きだった祖父は、夕方、再放送が始まると、ウイスキーの瓶とコップと柿の種を用意して、テレビの前に陣取るんです。若いころの深酒がたたり、祖母から、お酒は一杯だけと、きつく言われていたから、「表面張力、表面張力・・・」とつぶやきながらウイスキーをなみなみ注いで、黄門さまの世直し旅を見ながら、ちびちびすすっていた。その至福の表情が忘れられません」
もうひとりの東京の女性(43)は、小学生のころ、日が暮れて家に帰ると、祖母がテレビにかじりついて、「水戸黄門」を欠かさず見ていたという。それを横目にするうち、自分も、里見浩太郎さんが演じる助さんに、ぞっこん夢中になってしまった。
「学校でも助さんのことばかり考えていて、できることなら結婚したいと思うほど、絶対的なヒーローでした」
しかし、TBS系で40年余り放送された「水戸黄門」シリーズが2011年に終結したとき、地上波の民法テレビから時代劇のレギュラー放送が、いったん消滅。その後、盛り返す兆しはない。
時代劇に背を向けた人びとの言い分はこうだ。
「封建時代を描くから仕方ないが、男ばかり威張り散らすドラマは歯がゆい。命が粗末に扱われるのもいやだ」(長崎、65歳女性)、「日本の歴史には戦国時代と江戸時代しかないのかと思うほど、同じ人物が登場するのでうんざり。つくり手の視野が狭すぎる」(京都、57歳女性).
時代劇の命運、もはやこれまでなのか。アンケートでは多数を占めた擁護派を代表する意見を紹介しよう。
「観戦懲悪のワンパターンは、最後に悪が成敗されるという、現実にはめったにない結末をかならず見せてくれる。権力もお金もない庶民には、このうえない憂さ晴らしになる」(大阪、66歳女性)
この世に悪がある限り、滅びることはなさそうだ。