吉本興業と近畿大
オムロンなど協力新ビジネス模索
吉本興業と近畿大が「笑い」の効果を医学的に検証する研究をスタートさせた。取り組みにはオムロンやNTT西日本といった関西の先端企業が技術協力する。被験者になんばグランド花月(大阪市)で吉本新喜劇や漫才を鑑賞してもらい、顔の表情の変化や心拍数などを最新技術を使って測定。笑いが心理的健康に与える効果を検証し、新たなビジネスの可能性を模索する。
「笑いを科学・医学的に検証し、精神的な疾患に役立てたい」。近畿大医学部の小山敦子教授はこう今回の研究の狙いを語る。「笑いは健康にいい、という通説はあった」(吉本興業の戸田義人取締役)。だがその通説を裏付ける科学的な研究は、これまでほとんど実施されてこなかった。
小山教授によると、うつ病などの精神疾患の患者数は増加の一途をたどり、社会的損失は年間で約2兆7千億円におよぶという。
日常的な動作である笑いの刺激が、患者に好影響を与えることが実証できれば、「医療機器業界の市場規模にも匹敵する額の損失を削除できる」と力を込める。
笑いが持つ効果を明らかにするにはまず、効果的な測定方法の開発から始めなければならない。
より自然のデータを得るため、今回の研究では、笑った際の表情の変化をオムロンの画像センサーの技術を使って認識する仕組みを採用した。また、心拍数などの数値もNTT西日本のマイクロ波技術を用いて測定する。
事前に測定器などを被験者の体に取り付ける必要はない。劇場に赴き、ただお笑いを楽しんでいるだけで、データが自動的に蓄積されていくという訳だ。数値化したデータを分析することで、どんなタイプの笑いがどんな効果をもたらすのかを、具体的に明らかにしていくという。
今年2月中旬から始まった第一段階の試験の被検者はまずは健常者だけだが、研究チームでは来年10月以降に予定する第三段階の試験からは精神疾患の患者にも対象を広げていく方針だ。
笑いが介在することで疾病の発症率をどの程度減らせるか、といったより医学的な効果を明らかにする狙いだ。
研究が進めば、どんな新ビジネスの道が開けるのか。小山教授は「笑いを活用した企業のストレスマネジメント研修などの展開にもつながる」と意欲を語る。
またお笑いコンテンツの在り方も変わる可能性がある。
落ち込んだ時に見れば気分が高まる、夜寝る前に見ると元気が湧いてくる・・・。将来的には、心身状態に応じた最適な笑いが「心のサプリ」のような役割を果たすような日が来るかもしれない。