熟年は直視できない
箸が転んでも自撮りしそうな女子高生(愛知、16歳)曰く、「学校の生徒たちの間では、どれだけ、うまく自撮りができるかが、人を評価する物差しになっています」。
たかが自撮りごときと油断していたら、そんな大それたことになっていたのか。
もうひとりの女子高生(静岡、16歳)は、こう解説してくれた。「自撮りが得意な子の周りには、一緒に撮ってよ、と人が集まるから、友だちが増えるんです」
彼女は高校に入ってから、スマホで自撮りを始めた。学園祭や球技大会などのイベント中でなく、「おもしろい絵が描けたときや、放課後、友だちと一緒にいて、何もすることがないとき」撮るのだという。
瞳が大きく誇張されたり、美肌になったりする自撮り加工アプリを使いこなしているので、画像に写る顔つきは各段にレベルアップしている。
物心ついたとき、すでにカメラを内蔵したスマホや携帯が必需品になっていた世代には、もはや自撮りなき青春など考えられないのだろう。
しかし、中高年世代だとそうはいかない。
「初めてスマホを持ち歩くようになってから半年余り。ようやく自撮りのやり方がわかったので、夫と一緒に撮ってみたら、被写体が老化で見劣りして、カメラの性能に追いつかない非常な現実を突きつけられた。もう自撮りはしない」(埼玉、54歳女性)
ごく少数派だが、その世代にも自撮りに親しんでいる人びとがいる。しかし、女子高生のように、気まぐれに撮っているわけではないようだ。
「自分の容姿が他人の目にどう映っているのか、知りたくて自撮りしている。笑っていたつもりなのに、そう見えていないこともあり、イメージのギャップが修正できる」(広島、52歳女性)
京都の70代の女性は、スマホで自撮りした写真のアルバムをつくっている。プリントされた表情に笑顔はひとつもなく、どれも、しかめ面をしているという。「感情をコントロールできなければ、大人として失格です。ですから、怒りや混乱を抑えきれず、思わず顔に表れてしまったとき、自撮りしておくのです。時折、その醜態を見返して、反省しています」
熟年の自撮り。もはや修行である。