客から親近感
65歳を迎えるにあたって、中村勉店長や同僚から仕事を続けてほしいという意見が相次いだ。内田さんは「(同僚の)みんなと一緒に仕事をすることが好き。必要だ、と言われてうれしかった」と少し照れながら話す。
高齢になってもパート従業員として店で働き続けることを生きがいとしている姿は、他の従業員の手本やモチベーションになっている。中村店長は内田さんについて「人手不足を補うというだけでなく、それ以上の大きな力だ」と高く評価している。
同店の周辺地域は高齢化が進み、シニア世代の顧客が増えている。内田さんのような高齢な店員に対して「親近感をもってもらえる」(中村店長)。他のスーパー大手と人材争奪戦が激しくなるなか、単に人材を確保するという意味を超えたプラス効果をもたらしている。
ただシニアクルーになると労働条件は変わる。パート従業員の労働時間の上限は週35時間だが、シニアクルーはさらに短い20時間。同社は勤続1年以上のパート従業員は週20時間以上働くなど、一定の条件を満たした場合、労働組合に加入することになる。
週20時間未満にすることでシニアクルーは組合員ではなくなり、賃金改定や時給などは店長の話し合いで決まる。
マルエツでは「パートナー」と呼ぶパート従業員が約1万4千人、「学生クルー」という学生アルバイトが約4千人。これに対してシニアクルーは約1300人だ。開始から約2年でパート従業員の6%強を占めるまでになり、重要な戦力だ。
新規採用も3割
新規採用にもつながっている。シニアクルーの約7割は継続雇用だが、残りの3割が新規採用。特に新規オープンでは期日までに人材確保が必要で、従来は断っていた65歳以上のシニアを雇用することもできる。
運用するなかで見えてきた課題もある。スーパーでの仕事は商品の陳列をはじめ体を使う仕事も多い。店の裏手では商品を積んだ台車があり、床に傾斜があったり段差があったりすることも珍しくない。「働く人ににとってもバリアフリーな店舗の整備はこれから」(同社)だ。
またシニアクルーの年齢は65~67歳が多い。70歳以上の直接雇用はしていないが、2、3年後にシニアクルーが70歳になるときに上限の年齢を引き上げるかも検討課題だという。
スーパーなど小売店は外食産業に次いでパート従業員の採用数が多く、人手不足が課題となっている。給与水準だけでなく、働きがいや職場環境などの環境整備が不可欠になっている。高齢者の仕事に対する意欲をうまく取り込むことは、人手不足に対応するひとつの解といえる。