薬物乱用者の再犯をなくそうと、警視庁の一人の警察官が地道な活動を続けている。元乱用者やその家族、専門家らが月1回、警察署に集まり、体験や苦悩を語り合うようになって6年半。「捕まえるだけが刑事の仕事じゃない」。目指すのは、社会生活を送る中での薬物依存からの脱却だ。
怖さを痛感
「3回捕まって目が覚めた。待っている家族のために頑張った」「もうすぐ旦那が刑務所から出てくる。どう接したらいいか・・・」。昨年11月、池袋署の道場。男女約40人が3つのグループに分かれ、心の内を吐露した。
同署組織犯罪対策課の蜂谷嘉治警部(58)が始めた、「NO DRUGS池袋」と呼ばれるグループミーティングだ。
20年近く薬物事件を担当してきた蜂谷警部。逮捕後、更生したと思っていた男性が再び捕まるなどした経験から薬物の怖さを痛感、以来「自分が関わった人を二度と犯罪者にしたくない」との思いで活動を続けてきた。
警視庁によると、2014年に刑法犯で摘発された成人のうち同一前科がある再犯者は15%。一方、薬物事件の約8割を占める覚醒剤事件では65%と大きく上回る。摘発後10年以上たって、再び手を染めるケースもあるという。
悩みを共有
そのため池袋署のミーティングには、薬物や依存症の専門家も参加。個別の状況に応じて助言するほか、希望者には薬物を使用していないことを証明するため唾液による薬物検査もやっている。
開始当初はまだ一般的でなかった。元乱用者を抱える家族同士によるミーテイングも実施。同じ悩みを共有してもらい、乱用の兆候の見分け方や家庭でのサポート方法などを指導している。
回復の道筋
参加者で逮捕歴のある40代男性は「またやりたくなったこともあったが、親身になってくれた刑事さんを裏切れなかった」。弟が服役していた40代女性は「誰にも言えなかったことが話せて気持ちが楽になった」と笑みを見せた。
「月1回警察署に来るだけでも抑止効果がある。取り調べた刑事にだからこそ本音が言え、思いとどまることができる」と蜂谷警部。これまで元乱用者約50人とその家族らが参加、再犯者はほとんど出ていないという。
参加している高橋洋平弁護士は「犯罪の取り締まりという従来の警察業務を超えた活動に、救われている人も多い」と評価する。
「人によって回復の道筋はさまざま。ほかの施設と連携し、それぞれの強みを生かして薬物依存者の更生に向けた支援をしていくことが重要だ」と強調した。
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