認知症になれば、何もできなくなる。感情も失われるなどと思われがちだ。しかし母親を介護した福岡の男性(77)は「喜怒哀楽など人間の本質にかかわる部分は、何も変わらないと母親が教えてくれた」と書く。京都の女性(23)も「アルツハイマー型認知症の祖母は、いまはもう祖父しか認識できないけれど、ありがとう、をいつも口にして周囲にも好かれていて、尊敬する。私も祖母のように年をとりたい」。
一方、義母を介護した大阪の女性は「暴力をふるわれ、私のほうが義母より先に死ぬかと思った。つらい日々は家族の会が支えになった」と壮絶な体験をふり返る。家族の思いも様々だ。
「自分が認知症になったら家族や身近な人以外にも公表しますか」という質問に対しては、「いいえ」と答えた人が63%。「以前にくらべるとましにはなったが、認知症に対する偏見はまだまだ強い」(千葉、60歳女性)。それに立ち向かうには勇気がいる。
偏見をなくすためには、教育も必要だろう。「中学生のおいが、僕は認知症になったら生きていたくない、と言う。予防や治療も重要だが、認知症を受け入れる社会になるには、認知症を正しく理解するための教育も大切だ」(宮崎、55歳女性)、「認知症サポーターの養成講習は高校生ぐらいから受講してほしい」(東京、41歳男性)。
近年、偏見や誤解をなくそうと、当事者も声を上げ始めている。若年性アルツハイマー型認知症の佐藤雅彦さんは著書、認知症になった私が伝えたいこと、で「認知症になることは不便だけど不幸ではない。できなくなることは多いが、できることもたくさんある」と訴える。
認知症の治療は早期発見が重要で、早期診断も広がりつつある。しかし、症状が「初期」と診断されると「自立している」とみなされ、必要なサービスが受けられなくなるという問題も起きている。
大阪のディサービスで働く女性(44)からはこんな声が届いた。「介護の必要性が比較的軽度な要支援者は今後、サービスを受けにくくなるとみられている。早期の認知症は人と接するディサービスに通って、進行を遅らせていることも多い。国は現実を踏まえて制度を考えてほしい」
やみくもに心配するのではなく、現実を知り、国や自治体に必要な対策を求めていく。何よりもそれが肝心だ。
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