JASRAC民事調停
「私的利用」
飲食店など反発も
日本音楽著作権協会(JASRAC)が、著作権の手続きをせずにBGMを流している全国の飲食店や美容室など258施設に対し、使用料の支払いを求めて各地の簡易裁判所に民事調停を申立て、波紋が広がっている。パソコンなどで誰でも簡単にBGMを編集できるようになり、著作権を侵害しない「私的な利用」と商業利用との境界が分かりにくいため店側の理解が進まないことが、法的措置の背景にある。
「自分で買ったCDを流しただけ。客に音楽を聴かせて代金を取っているわけではないのに、使用料を払うのは腑に落ちない」東京都内の美容院の男性オーナー(65)は首をかしげる。約10年前、CDを高音質で連続再生できる機器を購入し、小鳥のさえずりや音楽を流してきたが、使用料を払ったことはないという。
かつてはこうした店でCDやレコードを流すのは自由だったが、著作権法改正で使用料を徴収できるようになり、JASRACは2002年4月に徴収を開始。当時は98%の店が有線放送などを利用し、USENなどの「音源提供事業者」を通じて徴収できた。
ところが近年は、有線放送を解約して携帯型音楽プレーヤー「IPOD(アイポッド)」などに曲をダウンロードしたり、好きなCDをパソコンで編集したりして使う店が増加した。その場合はJASRACと個別に契約する必要があるが、現在、徴収対象の約130万店のうち、個別契約済みは9%で、有線契約などを除く35%の約46万店が無許諾とみられるという。
JASRACは13年度以降、徴収強化に乗り出している。だが、店側には「昔は払わずに済んだ」「自分で編集しており私的利用の範囲内」といった意識が根強く、再三の催促にも応じない店について、15都道府県の簡裁にさきごろ話し合いでの解決を図る民事調停を申し立てた。
約18万人の事業者が加盟する全国商工団体連合会は「すべて商業目的とみなすのは一方的。境界を分かりやすく説明すべきで、今回の措置は店側の反発を招きかねない」と批判する。
著作権問題に詳しい早稲田大の上野達弘教授(知的財産法)は「店の雰囲気作りという営業上のメリツトがある以上、利益の一部を著作権者に還元するのは当然で、調停申立ては妥当だ」とする一方、「今後ますます音源が多様化し、権利が侵害されやすくなる。簡便な手続きで使用承諾を得られる仕組みづくりが必要だ」と指摘している。
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