生産性・ブランド力向上に一役
学生から評価
現在、前回の両社(星野リゾート、アクロクエストテクノロジー)は喫煙者の採用をしていない。星野リゾートでは「たばこを吸う人を拒否する影響はほとんどない」(小金井ディレクター)。アクロクエストは「知名度向上に役立ったし、学生からはポリシーがあって良いと評価してもらえている」(鈴木マネージャー)。
この2社は相当に早く禁煙を始めたほうだが、社会全体の嫌煙志向もここ数年で急速に高まった。09年に開始されたJR主要駅の構内全面禁煙や、10年のたばこ税増税はその現れと言える。さらに米系製薬のファイザー(東京都渋谷区)が喫煙者の減少に寄与した部分もあると考えられる。06年に国内で禁煙治療が保険適用対象になったことを受け、08年に禁煙補助薬「チャンピック」を発売した。「内服薬で従来のガムや貼り薬よりも効果が高く、メディアにも大きく取り上げられた」(藤田全宏イノベーティブ統括部部長)ことで治療の有効性が認知された模様だ。
同社は現在、企業や自治体を対象に、禁煙の必要性や実現方法に関する助言を無償で行っている。医師の処方箋を要する医療用薬品のチャンピックスを製薬会社が直接売り込むことはできない。だが禁煙の機運が高まれば結果として同薬の販売増加につながるとの判断はあるとみられる。
管理職に徹底
こうした潮流もあり、禁煙に乗り出す企業は後を絶たない。米製薬メルクの日本法人であるMSD(東京都千代田区)は14年6月に就業期間中の禁煙を規定。「文書連絡だけで済ませず、管理職へ部下指導を含めた責任を徹底的に認識させた」(萩原麻文美人人事部門シニアHRスペシャリスト)。たばこの臭いがついたまま医療機関を訪れると患者に悪影響を及ぼす点など、禁煙にした背景を明確に訴えている。
これに加えて禁煙治療を受ける社員に補助金の支給も行う。喫煙者にコストをかけることは不公平では、との議論もあったという。しかし「(喫煙者の)生産性の低さを解消したいし、(医療機関でのトラブルなどで)企業イメージが傷つくことの方が損害になる」(同)と判断した。
ビジネスの場でたばこが敬遠されているのは事実であり、「健康のために」とのスローガンだけでも社内禁煙が受け入れられる可能性はある。だが実のある取り組みにするためには禁煙の意味を問い直し、自信と覚悟を持って推進する必要があると言えそうだ。
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