若手の離職を防ぎ、育てて、業績アップ!
かつての日本は新入社員をちやほやしなくても経済成長を成し遂げた。若者気質が変わったということなのか。
「打たれ弱い若者の増加は事実だと思いますが、それ以上に、1990年代半ばからの産業構造の変化が大きいと思います」と指摘するのは、組織論が専門の太田肇・同志社大政策学部教授だ。「90年代後半からのIT化の進展で、事務職場でも単純作業はコンピューターに任せ、社員は自らアイデアを出したり、新たな価値を創造したりすることを求められるようになりました。単純作業の時代には厳しく叱ったり強制したりすることが通用しましたが、今はやる気を持って自発的に取り組まないと成果が出ないのです」
そこで「褒める」が注目されるようになった。
それでも「褒めるところが見つからない」と嘆く上司はどうしたらいいのか。
昨年、「ほめる力、楽しく生きる人はここが違う」(筑摩書房)を出した斉藤孝・明治大学教授は「相手に要求する基準を下げること」「自分と比べない」「変化を見逃すな」の3点を挙げる。
「求めるレベルが高すぎると、まだまだと思っているうちにタイミングを逃してしまいます。また、上司は部下より仕事ができて当たり前。自分と比べていたら、ダメ出しにしかならない」。三つ目の「変化」は「成長」と言い換えられる。「メールの文面が大人っぽくなったとか、課題の提出が少しだけ早くなったというような、以前のその人との違いを見つけることです。それには部下一人一人と向き合って、よく観察していなければなりません」
団体職員の男性(43)は駆け出しの頃、鬼上司にスパルタ教育を施された。「書類の原稿を出せば、全然なっていない、と丸めてたたかれた」。ところが、ある冬の夜遅くまで残業していたらその鬼上司がケーキを持ってきた。はっと気付けば、その日は自分の誕生日。「いや、ビックリするやら感動するやら。あの出来事は忘れられません」。今もその上司とは信頼関係が続いているという。
この話しを日本ほめる達人協会の西村さんは「これはすごい。よく部下の誕生日に気付きましたね」と絶賛した。
「褒めて部下をコントロールしようと思うとうまく行かない。実は、褒めるか叱るかよりも、誰に言われているか、の方が重要なんです。皆さんは部下のフルネームを漢字で書けますか。褒めるのは目的ではありません。円滑な人間関係の手段。そうやって築いた人間関係は、きっと上司の人生も豊かにしてくれます」
斎藤さんは「褒める習慣をつけることは自分のストレスやイライラを減らすことにも役立つ」という「うそやお世辞は不要。気付いたことを照れずに口にする。それだけで、自分自身も気持ちが軽やかになるはずです」
「情けは人のためならず」というが、現代は「褒めるは人のためならず」が新常識なのかもしれない。
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