情報流出
会員獲得困難に
通信教育大手ベネッセホールディングス(HD)の経営モデルが曲がり角に差し掛かっている。同社はアンケートやイベントなど全国各地で子供たちの個人情報を集め、成長の過程にあわせて継続して活用する「継続営業」で成長してきた。だが、情報流出で信頼は失墜。新たな個人情報の収集は難しくなってきている。
「お客様の不安を考えると、顧客情報を預かる活動に支障が出そうだ」。さきの記者会見で原田泳幸会長兼社長は厳しい表情でこう話した。
流出したのは、通信講座「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」といった26サービスの顧客らの個人情報760万件。朝日新聞の調べでは、元会員の20歳代女性ら幅広い年齢層を含む。最終的に2070万件にのぼる可能性がある。
これらの膨大な情報をベネッセは二つの方法を使って集めてきた。
一つは雑誌販売だ。妊娠して出産を控えた親には「たまごクラブ」、乳幼児のいる親にはは「ひよこクラブ」。雑誌を買ってくれた人へのアンケートなどを通じて収集している。
もう一つが子供向けイベント。全国の博物館などでスタンプラリーやクイズラリーを開催。文房具など子供向けの手土産も用意して個人情報を得てきた。こうした情報に基づき、小学校入学前の子供は「こどもちゃれんじ」、小学生から高校生までは「進研ゼミ」に誘うダイレクトメールや電話で、効率的な会員獲得につなげてきた。
「合法的な用法収集」(原田氏)に基づくビジネスだったが、今回、情報流出が明らかになったことで状況は厳しくなった。
子供向けイベントは、参加者から不安の声が寄せられたことから、当面の間の中止を決定。新たな個人情報は得にくくなる。
子供が成人になってからも蓄積されていた個人情報が流出した人からは「気持ち悪い」(東京都の女性)との声も続出している。顧客からの削除要請がない限り、一度得た情報を使いまわす手法が、今後は受け入られなくなる可能性もある。
今回、ベネッセは顧客への保証の資源として200億円を用意した。2014年3月期の営業利益358億円の6割近くに達する規模だが、SMBC日興証券のアナリスト織田浩史氏は「今回の情報流出は、ブランドの毀損につながる可能性がある。しっかりした再発防止策を打ち出さなければ影響は長引く」と話す。
アップル日本法人や日本マクドナルドで社長を務め、「経営のプロ」ともてはやされる原田氏だが、今回は顧客への保証をめぐって判断がぶれた。さきの会見では「(就任前に起きた流出とはいえ)今後のお客様対応や再発防止は私の責任」と語ったが、信頼回復への道のりは険しい。
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