公園で無心に遊ぶ子供たちがうらやましくて、たまりません。体がどこも痛くなさそうだからです。「肩こりがひどいからドッジボールはパス!」とか「腰がやばそうだから、ひと休み」なんて弱音をはく子はいないでしょう。大人たちの大半は痛みの奴隷です。いかも、一生、開放される希望はないとあきらめているのです。
地球の重力うらめしい
私を月まで連れてって!_かかりつけの整形外科医院でリハビリを終え、ひかえめにスキップしたい気分で家路についても、ものの数分で、地球の住人である不運を心の底から呪っている。
「いくら病院に通っても、重力があるかぎり、痛みから逃れられない。重力が地球の6分の1しかない月面の暮らしはどれほど楽だろうと、いつもうらやんでいるんです」
椎間板ヘルニアによる腰痛歴が約3年におよぶ、埼玉の主婦(61)はそう語る。
事の起こりは親の介護だ。長野の実家に独居している86歳の母親は5年前に両足のひざを悪くし、車いすなしでは表に出られなくなった。以来、かならず月に一度は帰郷して面倒をみていたが、田舎道で車いすを押しているうち、腰椎がギリギリと不快な雑音を発してきしむようにいたみはじめたのだという。
朝、目ざめても、鈍痛とともに下半身がしびれて起き上がれなくなることも、たびたびある。「医者は、もう治しようがないと身もふたもないことしか言いません。生きがいを失ってしまいました」
神奈川の主婦(68)は、息づかいがあらくなるほどの背中の痛みを約20年もこらえてきた。それはいつも、なんの前ぶれもなく、ちょうど心臓の裏側を襲ってくるという。立っていれば階段は上れなくなり、横になっても寝返りがうてなくなるほどの激痛だ。
「いったん始まると断続して十数分はやみません。いまはもう慣れているので痛い痛いとわめきながら家事をこなしています。内臓にも背骨にも異常がなくて原因は分からずじまい。自覚のないストレスのせいかもしれません。気に病まずに死ぬまでつきあっていくしかないようです」
腰痛をかかえている人だけで推定約2800万人いるといわれる日本は、まさに苦痛の帝国のようだ。今回のアンケートでも、いまは痛くないと答えた人でも、そのうち8割は過去に体のどこかが痛かった経験がある。無痛の人生を引き当てられた人びとはごくわずかしかいないらしい。
国民病といえる腰痛は椎間板ヘルニアや腰椎骨折、脊柱管狭窄などの病気が引き起こすだけでなく、原因不明なものが8割超を占めるという。回答者が様々に訴える慢性的な体の痛みも少なからず原因に思いあたる節がなく、えたいがしれないようだ。
「中学生のころから腰痛に悩んでいる。高校時代、医者に、一生完治しないから悪くならないように気をつけなさい、と断言されたときは気落ちして立ち直れなくなりそうだった。生来、体が硬いことしか原因は思いあたらない。両親と母方の親類がこぞって腰が痛いとぼやいていたので、家系としかいいようがない」(京都、49歳男性)
「子どものころから頭痛持ち。週末になると必ず締めつけられるように痛くなった。社会人になってからは常に痛みが突発する不安につきまとわれて、目がチカチカする前兆を感じたら、すぐに鎮痛剤を飲まないと顔の半分や鼻まで吐き気がするほど痛む。医者には一度だけ診てもらったが、頭痛がひどいときに来てもらわないと見当がつかない、といわれてあきれてしまってから行っていない」(茨城、36歳女性)
血管が切れたかと恐れおののくほどの頭痛に苦しんでいた神奈川の主婦(48)は、無意識に心の重荷になってものの仕業と疑い、「試しに夫を無視して、精神的に断捨離してみた」という。「すると頭痛はたちまち解消!私にとって夫は文字通り、頭痛の種だったのです」
頭痛の帝国は、ストレスの帝国と表裏一体なのだ。
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