社会で支える仕組み重要
警視庁はこのほど、認知症が原因で行方不明になったことの届出が平成24年に9607人分あったと明らかにした。231人は24年中に発見できず、25年に入ってから53人見つかったとしている。衆議院厚生労働委員会で、民主党の長妻昭氏の質問に答えた。
長妻氏が警視庁から提供された資料によると、受理件数が最も多いのは大阪府警で2076人。兵庫県警(1146人)、愛知県警(735人)と続いた。
24年中の所在が確認できた人は、24年より前に行方不明になっていた人も含めると9478人。帰宅したり、発見されたりしたのは8754人で、死亡者は395人だった。
田村憲久厚生労働相は記者会見で、徘徊症状がある認知症高齢者が列車にはねられ死亡した事故で、家族の監督責任を認めた名古屋高裁判決について「今回のような事故が起こり得ること自体が大きな課題。どう防ぐかを念頭に置き政策をつくりたい」と述べた。
認知症患者の遺族に対し、名古屋高裁が鉄道事故の賠償命令を出すなど患者を取り巻く環境は厳しい。
老老介護の厳しさ
「近所に散歩にでかけていると思っていた夫が、リュックサックを背負って鉄橋を歩いていたと親戚から聞いた。危ないので一緒に歩くことにしたが、子供時代にいた町まで十数時間歩きっぱなし。足が腫れ、ストレスで目も見えなくなった」 4年前に認知症と診断された70代の女性はそう話す。徘徊など激しく動く高齢者は施設への入所を断られることも多く、夫婦は精神科に入院することに。高齢者の見守りを行う「釧路地区障害老人を支える会(たんぽぽの会)」の岩淵雅子会長は「疲れ切って海岸の崖から心中を考えた妻もいる」と老老介護の現状を明かす。
徘徊阻止は不可能
しかしこうした認知症患者や介護への理解は十分でない。名古屋高裁が、徘徊中に電車にはねられた男性の遺族に、賠償支払いを命じる判決を出した。「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事は「鍵をかけてもうまく外す。ブロック塀を乗り越えて外に出る。認知症の人はまるで忍者。徘徊を完全に防ぐのは不可能だ」と話す。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、平成47年には全世帯の4割超が65歳以上が世帯主の高齢世帯となる。介護訴訟に詳しい浜松医科大の大磯義一郎教授(医療法学)によると、介護中の事故をめぐる民事訴訟はこの10年で倍増したという。大磯氏は「徘徊中の事故に備える保険など、患者や家族を支える社会の仕組みづくりが必要だ」と指摘している。
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