武器のない戦争
「資源高や欧州危機など長引く不況の中、各国とも輸出促進は急務。購買力のある市場に食い込む際、大使館や公邸の立地は国力とも相関があり、よいアピール材料になる」と分析するのは「大使館国際関係史」の著書で、在外公館を研究する木下郁夫・愛知県立大准教授だ。「東京は、アメリカのワシントンとニューヨークのように政治と経済、文化の中心が分かれておらず、大使館での売り込みは効率がいい。ここでの販促活動は、アジアをはじめ、世界的に有効とみていいだろう」
こうした動きを商機ととらえ、在京大使館の活動などを伝える専門誌「EMBASSY(大使館)」が今年5月に創刊された。各国政府や航空会社、ホテル、自動車会社などが広告主だ。本国の動きまで幅広く伝えるため、10月号から誌名を「BILATERAL(二国関係)」と改称した。同誌のデービット・ダボスCEOは「今年6月には横浜でアフリカ開発会議も開かれ、石油やダイヤモンドのような資源をもつ新興国への投資熱は高まっている。大使館を基点とした情報交換は不可欠だ」と話す。
ところで、日本の在外大使館はどうだろうか。「大使館には、地盤、と看板、がある。現地の要人が集まりやすい立地で、現地メディアによる一定の報道量が期待できるからです。我々も、民間協力でカバン(資金)を補いつつ、大使館を使って商品や産業を必死にPRしています」と話すのは外務省の島田文裕文化交流・海外広報課長。大企業中心だった海外進出が中小企業にも広がり、現地政府や政財界への働きかけ、契約履行の確認といった、大使館による企業支援の機会は増えているという。
大使館の施設を使ったPR活動の拡大は世界的な流れで、各国間の競争は激しくなる一方らしい。特に新興国では激烈で、日本も在エストニア大使館で電気自動車の展示会を行うなど、主に重厚長大製品を紹介。先進国では、在スペイン大使公邸での日本食フェアのように、文化や伝統工芸、化学製品、先端電子機器といった付加価値の高いものが中心だ。島田課長は「社会主義国など官民の区別なく国家全体で攻めてくる国もある。これは武器を伴わない戦争です」と断言した。
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