こんにちは北区王子の税理士松村憲です。
大地震に備えて建物の耐震化を急ぐ国の動きの余波で、経営が厳しい温泉地の老舗旅館が姿を消すかもしれない。
5月に成立した改正耐震改修促進法で再来年までに耐震診断が義務づけられ、結果が公表されるからだ。「耐震化の必要性は十分理解している」とする旅館側だが「十分な支援がないと、温泉地は壊滅する」という声も漏れる。全国82市で構成する「温泉所在都市協議会」は、国に財政支援などを要望している。
同法は1981年の耐震基準強化前に建てられた、一定規模以上のホテルや病院などについて、2015年末までに耐震診断を義務づけた。結果は公表され、診断を受けないと100万円以下の罰金が科される。
日本弁護士連合会が昨年、旧耐震基準に基づく全ての建物の診断と改修を求めるなど、「安全」への関心は高い。国土交通省も結果の公表について「利用者の立場に立った」と説明する。旅館やホテルの場合、8~10階建てで客室数40~50の中規模施設が対象になる。その数は全国で1000軒を超えるという。
「資金を準備できず改修予定を立てられないまま、耐震不足と公表されると、客は一気に遠のく」。
静岡県熱海市で旅館を経営する内田進さん(66)は嘆く。自身の宿には問題はないが、熱海温泉ホテル旅館協同組合理事長として地域経済への影響を不安視する。
約120軒の旅館やホテルが並ぶ熱海では、14軒が耐震診断をもとめられる。耐震不足と分かっても各旅館が数億円に上るとみられる資金を工面できるか心配だ。
団体客の減少やレジャーの多様化で温泉観光地は苦戦している。熱海の10年の宿泊客数は約260万人で、最盛期(69年)から半減した。
観光業特有の事情もある。比較的安い改修は窓側にX型の筋交いを入れて補強するする方法だが、眺望を妨げるため使いづらい。「このままでは廃業する宿も出る」と気に掛ける。
自治体も危機感をもつ。病院やデパートに比べ、特定の場所に密集する温泉旅館は地域に与える影響がおおきい。斉藤栄・熱海市長は「土産物店や清掃業者など市内の就業者の多くが関わっている」と説明する。
改正法成立の併せて整備された新しい補助制度を使うと、自己負担は33~89%で済む。だが、その割合は都道府県や市町村がどれだけ負担できるかでかわる。
温泉地を抱える市町村の財政規模は、どこも大きくない。熱海市の場合、14旅館すべてを改修すると市の支出は10億円を超える可能性もある。年間税収が約100億円の市のとっては重い負担だ。斉藤市長も「診断が終わらないとどこまで負担できるか判断できない」と歯切れが悪い。
温泉所在都市協議会は財政支援だけでなく、公表を遅らせることも要望している。国交省は「公表時に改修予定がきまっていたら、明記できるようにしたい」と配慮を示すが、費用面は「国としてできる限りの措置はした。後は地方に頑張ってほしい」としており、見直しには消極的だ。
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