国産ウナギの価格高騰影響が広がっている。4年連続となる稚魚(シラスウナギ)の不漁で、稚魚の取引価格は、記録的な高値だった昨年の約214万円(1キログラム)を超え、活ウナギの価格も上昇。うなぎの店では、値上げに踏み切っているものの、安い外国産を扱う外食チェーンの攻勢も加わり、客離れから閉店に追い込まれるところも出ている。
「お客さんが本当に来なくなってしまった」。5月の末で暖簾を下ろした東京・神田小川町のうなぎ専門店「寿々喜」の元店主、松下貴司さん(57)は、がらんとした店内で寂しげに話した。
松下さんは、1909年(明治42年)創業の老舗の4代目。20代で店を継ぎ、木製のお重を半世紀以上も使う地元の名店として人気だったが、ここ数年は仕入れ価格の高騰が経営に重くのしかかっていた。
特に昨年は、全国的に極端な稚魚の不漁で、前年まで87万円(1キログラム)の取引価格は一気に200万円台に。築地市場では、最も高い7~8月平均の活ウナギの取引価格が、5年前の倍以上4492円(同)となった。
店では、かば焼きを小さくしたり、夏場はうな重を900円値上げして3000円台にしたりしたが、50人入れる店内は、夜は閑散とした。その後、2500円に値下げしたが、客足は戻らなかった。
それでも、店をたたむことは「ご先祖さまに申し訳ない」という気持ちが強く、相談した妻には「私はお給料いらないし、ためていたお金もつかってもいいから頑張ろう」と励まされた。
取引価格は今年も下がらず、稚魚は約260万円、活ウナギは5月平均で4573円。このままでは赤字が膨らむだけで、「お客さんに、おいしい、と喜んでもらえるようなうなぎを以前のような価格で提供できない」と閉店を決意した。
閉店間際、店は常連客らでにぎわい、その売り上げで、最後まで残った調理師2人に退職金を支払った。松下さんは「サラリーマンや家族連れがおいしく食べれらる値段に戻ってくれることを、ただただ望んでいる」と言葉を絞り出すように語った。
東京鰻蒲焼商組合によると、2003年に都内で約130店だったうなぎ店は現在、95店。ここ数年は個人経営の老舗の閉店が目立つという。川端康成や大仏次郎らに愛された「浅羽屋」(神奈川県鎌倉市)も今年一月、閉店し、全国鰻蒲焼商組合連合会の涌井恭行理事長は、「このままでは、今年も廃業する店が相次いでしまう」と嘆いている。
稚魚の不漁は、乱獲やウナギが生息する河川の開発、気候変動などの影響が指摘されている。
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