先日に引続き、事業承継について、相続の遺留分に関する民法の特例について触れてみたいと思います。
事業承継には、
・ 後継者に自社株を集中させたいが、相続紛争が心配
・ 相続までに自社株の価値が上昇すると、想定外の遺留分の主張を受けないか心配
・ 現行の遺留分の事前放棄は利用しにくい
などの悩みがつきものですね。
現経営者(例えば父)が、生前贈与や遺言によって後継者(例えば長男)に自社株を集中し、事業を承継しようとしてもうまくいかない場合があります。
それは、相続人には原則として「遺留分」があるからです。
■ 遺留分とは■ 本来自分の財産は誰にどのようにあげるのも自由なはずですが、民法は遺族の生活の安定や最低限度の相続人間(兄弟姉妹及びその子を除く)の平等を確保するために、最低限の相続の権利を保障しています。これが「遺留分」です。 他の相続人が過大な財産を取得したため自己の取得分が遺留分よりも少なくなった場合には、自己の遺留分に相当する財産を取り戻すことができます。 遺留分の額は、遺留分算定基礎財産(遺産に一定の生前贈与財産を加え、負債を差し引いた財産)に遺留分の割合(原則2分の1、父や母だけが相続人の場合は3分の1)を掛けて算出します。 |
遺留分による紛争や自社株の分散を防止するため、経営承継円滑法は、「遺留分に関する民法の特例」を規定しています。
これを活用すると、後継者を含めた現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株について、
・ 遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)
・ 遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)
のいずれかをすることができます。
除外合意は、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなるので、相続に伴って自社株式が分散するのを防止できます。
固定合意は、自社株式の価格が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者は相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。
他に、遺留分を有する相続人が、被相続人の生前に自分の遺留分を放棄することによって相続紛争や自社株式の分散を防止することができる「遺留分の事前放棄」がありますが、遺留分を放棄するには、各相続人が自分で家庭裁判所に申し立てをして許可を受けなければならず、負担が大きいこと、また、家庭裁判所による許可・不許可の判断がバラバラになる可能性があることなどから、自社株式の分散防止対策としては実際上は利用しにくくなっています。